世界のお金の流れが変わる!日本・中国が米国債を手放す理由と株への影響
序章:米国債市場で起きている「異変」とは?
私たちが普段意識することは少ないですが、世界の金融市場では今、歴史的な変化が起きています。それは、世界で最も安全な資産とされる米国債(アメリカの国が発行する借金)をめぐる、国々の保有シェアの大きな変動です。
長年、米国債の「大口顧客」だった日本と中国が保有を減らし、代わりにイギリスのシェアが急増しています。これは単なる数字の変化ではなく、世界の金融の勢力図や、私たちの投資する米国株市場にまで影響を及ぼす重大な動きなのです。
この記事では、この変化の背景にある理由と、今後の見通し、そして米国株への影響をわかりやすく解説します。
1. 【これまでの経緯】なぜ日本と中国は米国債を手放し始めたのか?
かつては日本と中国が世界の外国勢による米国債保有額の半分近くを占めていましたが、その状況は大きく変わりました。
中国:政治的リスクと「脱ドル化」
中国が米国債の保有を減らしている最大の理由は、地政学的なリスクの回避です。
米中対立の深刻化
貿易摩擦や安全保障上の対立が深まる中、「もし米国から金融制裁を受けたら」というリスクを回避するため、米国資産への依存度を下げる脱ドル化を進めています。為替介入
人民元(CNY)を安定させるため、米ドル資産を売却することがあります。
この結果、中国のシェアは過去23年で最も低水準に落ち込みました。
日本:国内金利の上昇と資産の「国内回帰」
日本が米国債を減らしている背景には、主に二つの要因があります。
円安への対処(為替介入)
急激な円安を食い止めるため、円買いの原資として保有する米国債を売却しました。国内資産の魅力向上(重要)
日銀の金融政策修正により日本国債の長期金利が上昇したことで、生命保険会社や年金基金などの機関投資家が運用を見直しています。海外債券を保有する際の「為替ヘッジコスト」が急増
その結果、ヘッジ後の米国債利回りが日本国債を下回る逆転現象が発生
採算が合わず、米国債を売却し、利回りが改善した国内の日本国債・クレジット市場へ資金を戻す動き(国内回帰)
イギリスが急増した本当の理由
イギリスの保有シェア増加は、イギリス政府が買っているわけではありません。ロンドンは国際金融センターであり、世界中の投資家がロンドン経由で米国債を保管・取引しているため、統計上「イギリスの保有」として計上されている側面が大きいのです。
これは、保有主体がより多様な投資家に分散していることを示唆しています。
2. 【今後の予想】米国債の「買い手不足」は起こるか?
日本と中国という主要顧客が保有を減らす一方で、米国は今後も巨額の国債を発行し続ける必要があります。この構造変化には、以下の影響が予想されます。
金利上昇圧力の持続
大口顧客が減ると、米国は新たな買い手を集めるために、より高い金利を提示せざるを得ません。日本の行動がカギ
日銀の政策正常化が進むほど、日本の米国債売却が増え、米国債市場の不安定性を高める可能性があります。
3. 【米国株への影響】なぜ米国債の動きが株価を左右するのか?
米国債の外国保有シェア低下は、米国株市場に間接的な経路を通じて影響を与えます。
影響①:株価評価の重荷(ディスカウントレートの上昇)
外国需要の減退 → 米国債利回りが上昇
利回り上昇 → 株式の割引率(ディスカウントレート)上昇
特にハイテク株(グロース株)は割引率上昇に弱く、バリュエーションに下落圧力
影響②:企業の資金調達コストの上昇
国債利回り上昇 → 社債利回りも上昇
企業の借入コスト増加 → 利益圧迫 → 株価にマイナス
影響③:市場の不安定性の増大
日本・中国という主要国が思惑で米国債売買を行うため、市場のボラティリティが増え、不確実性が株価の短期変動を大きくします。
まとめ
米国債の外国保有の変化は、世界経済の構造変化を映しています。
| 国 | シェア減少の要因 | 株への影響経路 |
|---|---|---|
| 中国 | 地政学リスク、脱ドル化 | 米国債市場の需給不安 |
| 日本 | 国内金利上昇、国内回帰 | 米国長期金利の上昇、株価評価の重荷 |
この流れは米国債金利に上昇圧力をかけ続け、結果として米国株、特にグロース株のバリュエーションに影響を与え続ける可能性があります。
投資家としては、金利動向や日米の金融政策の差にこれまで以上に注意を払う必要があります。

