生命保険会社はなぜ30年・40年国債を買うのか?
金利上昇が生保に与える二つの影響
生命保険会社(生保)が発行される超長期の日本国債(30年・40年債)の主要な購入者であることはよく知られています。
しかし、なぜ生保が長期の国債を必要とし、現在の金利上昇局面でどのような影響を受けるのでしょうか?
この記事では、生保と長期国債の密接な関係と、金利急上昇がもたらす短期的なリスクと長期的な機会を解説します。
1. 生保が超長期国債を買う決定的な理由:ALM(資産・負債管理)
生命保険会社が長期国債を購入する最大の理由は、ALM(Asset-Liability Management:資産・負債管理)という経営手法にあります。
📌 負債が「超長期」であるという特性
生命保険会社が将来、契約者に支払う保険金(負債)は、終身保険や養老保険など、契約から数十年にわたる非常に長い期間で発生します。
この負債は非常に長い期間(デュレーション)を持っています。
📌 負債に見合った「超長期」資産の確保
生保はこの超長期の支払い義務を確実に履行するため、負債の期間と可能な限り同じ期間で安定した収益を生み出す資産を確保する必要があります。
国債の安定性
日本国債は信用リスクが極めて低く、満期まで保有すれば確定的な利息と元本が戻るため、超長期の負債に見合う低リスクかつ安定的な運用商品として不可欠です。
生保は長期国債を購入することで、資産と負債の期間を整合させ、金利変動リスクを抑えつつ、確実に保険金を支払える体制を構築しているのです。
2. 長期国債の金利急上昇が生保に与える影響
近年、長期金利が上昇傾向にありますが、これは生保の経営に短期的なマイナス面と長期的なプラス面の両方をもたらします。
🔴 短期的なマイナス影響:既存保有債券の含み損
金利(利回り)が上昇すると、既に発行された既発債の市場価格は下落します。
生保が大量に保有する超長期国債は、わずかな金利上昇でも時価が大きく変動します(=金利感応度が高い)。
そのため、市場金利が急上昇すると、生保の保有国債に評価損(含み損)が発生し、財務指標の一部に影響を及ぼします。
🟢 長期的なプラス影響:運用利回りの改善とALMの改善
一方、金利上昇は長期的には生保の収益体質を改善する大きな機会となります。
① 再投資利回りの向上
満期を迎えた国債や、新たに受け取った保険料を運用する際、より高い利回りで再投資できます。
これにより、生保の全体的な運用利回りが向上し、加入者への予定利率(=約束した運用利回り)を達成しやすくなります。
② 負債評価の改善(割引率の上昇)
長期金利が上昇すると、将来の保険金支払いの現在価値を計算する際の割引率も上がります。
割引率が上がれば負債の現在価値は下がるため、経済価値ベースの負債評価が圧縮され、財務の健全性を示す指標の改善につながる可能性があります。
💡 まとめ
| 項目 | 短期的な影響 | 長期的な影響(機会) |
|---|---|---|
| 国債価格 | 下落(評価損・含み損の発生) | なし |
| 新規運用 | なし | より高い利回りで再投資が可能 |
| 財務健全性 | 一部の指標で悪化懸念 | 負債圧縮・運用益改善で向上 |
生命保険会社にとって、長期金利の上昇は短期的な痛みを伴いますが、
長期的には収益力を高め、本業である超長期の保険契約の裏付けを強化する絶好の機会と捉えられています。

