💸 政治と財政のジレンマ:なぜ積極財政は「人気」なのか

💸 政治と財政のジレンマ:なぜ積極財政は「人気」なのか

1. 政策立案者が持つ「短期的なインセンティブ」

政策立案者、すなわち国民の代表者は、なぜ財政赤字の拡大に傾きがちなのでしょうか。その理由は極めてシンプルです。

  • 財政赤字の増加:短期的に雇用と消費を増加させる効果がある
  • 財政黒字の増加:短期的に雇用と消費を減少させる効果がある

国民、特に有権者の視線は、選挙期間中など常に短期的な景気動向、雇用、そして消費に向いています。そのため、財政赤字を是正しようとする政策は、短期的に国民の痛みを伴い、政策立案者にとって政治的に人気を得にくい選択となります。

この構造が続く限り、国民の代表たる政策立案者が、債務増加や高い赤字に対処するためのインセンティブを持つことは困難となります。


2. デフレ脱却後の「国債と通貨」の選択

赤字が増加し、脱デフレ(インフレ)の局面に入ると、政府は新たなジレンマに直面します。それは、国債(特に長期金利)の価値通貨の価値のどちらを守るのかという選択です。

財政赤字をファイナンスする手法によって、結果は大きく異なります。

● 短期債でファイナンスする場合

  • 長期金利は抑えられる
  • 一方で通貨の価値は毀損(下落)しやすくなる

● 長期債でファイナンスする場合

  • 通貨価値は守られる
  • その代わり、長期金利は上昇しやすい

3. 「短期的な延命」を優先するメカニズム

この選択においても、政策立案者が長期債の発行を選択するインセンティブは弱いのが実情です。

短期債は現金に近く、その発行は景気を過熱させ、一時的に失業率を下げる効果があります。一方、長期債の発行は金利上昇を通じて景気抑制効果をもたらします。

結果として、多くの国では「将来のお金を保護する」という名目のもと、長期金利を人為的に低く抑えることに終始するパターンが見られます。これは短期債依存につながり、最終的には緩慢ではあるものの断固とした通貨価値の毀損を引き起こすリスクが高まります。


4. 民主主義が抱える「時間軸の歪み」

特に高齢化が進む民主主義国家においては、この「短期的な延命」の魅力はさらに増します。

通貨価値毀損や財政破綻といった「惨状」が到来する頃には、政策決定を行った当事者や、現在の主要有権者層がその責任や影響を直接的に負わない可能性が高いからです。

この構図は、
「短期的な延命+長期的な惨状」
という選択が、
「短期的な痛み+長期的な繁栄」
よりも政治的に圧倒的に魅力的であることを示しています。


5. 日本の状況と今後の展望

こうした事情から、多くの国は債務危機・通貨危機・ハイパーインフレーションといった最終的な破綻を迎えるまで、「短期的な延命」の選択を続けてしまいます。

日本が現在、積極財政を続けているように見えるのも、このような政治的インセンティブの構造を踏まえれば、意外なことではありません。

ただし、この選択が必ずしも「惨状」につながると決まっているわけではありません。筆者としては、この状況への懸念を拭いきれず、未来の世代にとって最悪の結果が訪れないことを祈るばかりです。