金(ゴールド)が中央銀行準備金で30年ぶり高水準に

金(ゴールド)が中央銀行準備金で30年ぶり高水準に

背景、経緯、そして今後の見通し

世界の中央銀行が保有する準備金に占める金の割合が20%を超え、約30年ぶりの高水準に達しています。
この数字は、単なる貴金属市場の動きを超え、国際金融システムの構造的な変化を示唆しています。

1970年代の金本位制終焉から現在に至るまでの流れを振り返りながら、
このトレンドの背景・経緯・今後の見通しを考察します。


1. 背景:ブレトン・ウッズ体制の終焉と「無国籍通貨」としての金

中央銀行の準備金における金の役割を理解するには、1970年代初頭の大きな転換点を押さえる必要があります。

1970年代:金本位制の終焉

1971年、アメリカがドルと金の兌換停止を発表(ニクソン・ショック)。
これにより戦後の国際通貨体制「ブレトン・ウッズ体制」は崩壊しました。

この出来事によってドルは金の裏付けを失い、固定相場制から解放。
金は国際決済手段としての主要な地位を失い、価格が市場で変動する**「無国籍通貨」**へと変貌しました。

この時期、中央銀行にとって金は準備資産としての重要性が一時的に低下し、
準備金におけるドルの割合が増加していきました。


2. これまでの経緯:売却期から買い越しへの転換

1970年代以降、中央銀行の金準備の動きは大きく二つのフェーズに分かれます。

(1)1980年代後半~2000年代初頭:売却フェーズ

冷戦終結後の安定期(いわゆる「大いなる安定期」)において、
多くの先進国の中央銀行は利息を生まない金よりも外貨(特に米ドル)を重視
積極的に金の売却を進め、金の割合は歴史的な低水準へ向かいました。

(2)2008年世界金融危機以降:大規模な買い越しフェーズ

潮目が変わったのは、2008年の世界金融危機です。

  • 金融システムの不安定化と信認の揺らぎ
    → 米ドルを中心とする金融システムや主要国の財政・金融政策への不信感が拡大。

  • 新興国・途上国の中央銀行による購入
    → 中国、ロシア、インド、トルコなどが主要な買い手として台頭。
    外貨準備のドル依存からの脱却・ポートフォリオ分散を加速。

  • 地政学的リスクの上昇
    → 米中対立、ロシアのウクライナ侵攻などにより、
    特定通貨への依存リスクが顕在化。
    金は「国家信用から独立した究極の担保」として再評価されました。

こうした動きが重なり、中央銀行の金保有は大幅に増加。
結果として、準備金に占める金の割合は約30年ぶりに20%超へと上昇しました。


3. 今後の見通し:構造的な需要と金価格への影響

このトレンドは一時的な現象ではなく、国際金融の構造変化に基づく長期的潮流と考えられています。

継続的な需要の見通し

中央銀行による金の買い越しは、今後も続くと見られます。
その背景には以下の要因があります。

  • 脱ドル化(De-dollarization)の動き
    → 米ドル依存を避ける戦略が新興国を中心に継続。

  • 高インフレと価値の保全
    → 世界的なインフレ環境の中で、金は価値保存・インフレヘッジとして魅力を増大。

  • 地政学リスクの常態化
    → 不安定な国際情勢が続く限り、金への需要は根強い。

金価格への影響

中央銀行は短期的な値動きに左右されず、長期戦略として金を購入します。
このため、中央銀行の需要は金価格の下支えとなり、上昇圧力を生みます。

一部の強気な予測では、数年以内に史上最高値を更新する可能性も指摘されています。
金は「米ドルに次ぐ第2の準備資産」としての地位を確立しつつあり、
その重要性は今後さらに高まるでしょう。


【初心者向け解説】そもそも中央銀行準備金とは?

「中央銀行準備金」や「外貨準備」という言葉は難しく聞こえますが、
イメージとしては、**国が持つ「万が一のための貯金」**です。

項目内容
定義各国の中央銀行(日本なら日本銀行)が保有する、いつでも使える流動性の高い資産。
主な目的① 為替の安定:急激な円高・円安を防ぐ為替介入の原資。② 信用の担保:危機時に対外債務の返済・輸入代金支払いに備える「お守り」。
構成要素– 外貨(米ドル、ユーロなど):利息を生み、国際決済に使用される主要資産。- 金(ゴールド):利息はないが、国家信用に左右されない安全資産。- IMF資産:国際通貨基金の加盟国としての権利に基づく資産。

今回のトピックとの関係
この記事で議論しているのは、この「貯金(準備金)」の中で、
金(ゴールド)の割合が米ドルなどの外貨に対して増えてきているという動きです。

つまり、中央銀行が経済的不安や安全保障上のリスクに備え、
より安全性の高い資産である金へシフトしていることを意味します。


まとめ

中央銀行準備金における金の割合が30年ぶりの高水準に達したことは、
1970年代の金本位制終焉以来の国際金融システムの転換点を象徴しています。

地政学リスク、ドル依存リスク、インフレ懸念が続く限り、
中央銀行による金買いトレンドは持続し、
国際金融における金の役割は一層強化されていくでしょう。