なぜメルカリとトヨタは強いのか? 金融事業がもたらす「無敵のエコシステム」
多くの日本企業の中で、盤石な収益構造を築いている企業には共通点があります。
それは、本業と強く結びついた 「金融事業」 を持っていることです。
フリマアプリの雄であるメルカリと、日本の製造業の頂点に立つトヨタ。
一見すると接点のないこの2社ですが、実はどちらも金融事業を成長のエンジンとして活用しています。本記事では、両社の事例を比較しながら「なぜ金融事業を持つ企業は強いのか」を解説します。
巨大企業が金融事業を持つ3つの決定的なメリット
1. 独自のデータに基づく「信用創造」
金融の根幹は「信用(与信)」です。従来の銀行は年収や勤務先といった情報でしか信用を測れませんでした。しかし、自社で金融事業を持つ企業は、顧客のリアルな行動データを基に独自の信用評価が可能です。
- メルカリの例
ユーザーがフリマで商品をどれだけ丁寧に出品・梱包したか、期日通りに支払いを完了しているかなど、取引実績を審査に活用。これにより、銀行では評価が難しかった若年層にも適切な与信を提供し、新たな収益機会を創出しています。 - トヨタの例
自動車の購入・リース・保険といった高額かつ長期の取引データを保有。これが安定した金融サービスを提供するための強固な信用基盤となっています。
2. 顧客を逃さない「経済圏(エコシステム)」の構築
金融サービスは、顧客を自社サービスにロックインし、他社への流出を防ぐ最強の仕組みです。
- メルカリの経済圏
フリマで得た売上金をメルペイとして利用し、その決済履歴を基に発行されるメルカードで利便性を拡大。さらに、売上金をメルコイン(暗号資産)に運用することも可能です。
つまり「売る → 決済する → 借りる → 運用する」という生活経済活動を自社内で完結させ、ユーザーを強固に囲い込んでいます。
3. グループ全体の「利益安定化」
金融事業の収益は、本業の景気変動に左右されにくい特徴があります。
- トヨタファイナンス
自動車販売台数が変動しても、既存のローンやリース契約からの金利・手数料収入は安定。企業収益の「下支え」となっています。 - メルカリFintech事業
FY2025.6期には、グループ利益を大きく牽引。米国事業の黒字化と並び、収益構造を劇的に改善しました。今やFintechは、メルカリの 「収益の柱」 となりつつあります。
インフレ時代に金融事業がもたらす「耐性」
購買力の維持(メルカリの柔軟性)
物価上昇で購買力が低下すると「安く買いたい」「不要品を換金したい」という需要が高まり、メルカリのリユース市場は活性化。さらに、メルカードや後払いが顧客の購買行動を後押しし、不況下でも本業の売上を支えます。
金利上昇の恩恵(トヨタの安定性)
インフレ対策で金利が上昇すると、金融事業は利息収入を得やすくなります。トヨタファイナンスのように貸付基盤が強い企業は、むしろ収益拡大のチャンスとなり、財務的な安定性を強化できます。
まとめ:金融は未来の成長エンジン
メルカリは「AIネイティブカンパニー」への転換を掲げており、Fintechはその中核を担います。独自の金融データをAIが分析することで、より高度でパーソナライズされた与信やサービスが可能になり、競争優位性は一層高まるでしょう。
メルカリとトヨタの事例は、本業から生まれるデータを活用し、「信用」という無形資産を収益に変える金融事業こそが、企業の持続的成長の原動力であることを示しています。
金融事業を持つ企業は、経済変動に強い「無敵のエコシステム」を築き、未来の市場でも生き残る力を備えているのです。