2020年以降のS&P500と金価格上昇は「実質的な価値上昇」か?それとも「通貨価値の下落」か?
投資家にとって気になるテーマのひとつが「S&P500や金の価格上昇は、本当に資産価値が高まった結果なのか、それとも通貨の価値が下がっただけなのか?」という疑問です。ここでは2020年以降のマクロ環境や価格要因を整理し、両者の違いと投資戦略への示唆を考察します。
(※本記事は一般的な情報提供であり、投資判断はご自身の責任でお願いします。)
1. マクロ環境の大変化(2020年以降)
- 金融緩和の大規模実施
コロナ禍を受け、FRBや日銀はゼロ金利政策と大規模な量的緩和(QE)を実施しました。ドルや円の通貨供給量は急増しています。 - 財政出動の拡大
米国では給付金や失業保険の拡充、日本でも財政赤字の拡大が進みました。 - 結果:通貨の希薄化
貨幣価値の低下により、実物資産やリスク資産へ資金がシフト。株や金の価格上昇を下支えしました。
2. S&P500の上昇要因
(A) 実体的要因
- GAFAMを中心とする米企業は、クラウド、AI、Eコマースで大きく収益を伸ばしました。EPSはコロナ前を明確に上回っています。
- 当初は金利低下と資金流入で株価が上昇し、2022年以降は利上げで調整。その後はAI投資期待で再び上昇と、フェーズごとに要因が変化しました。
(B) 通貨的要因
- CPIベースで米ドルの購買力は2020年から20%以上低下。
- 株価は名目値で表示されるため、通貨安が進むと実質的価値が変わらなくても「高く見える」効果があります。
3. 金価格の上昇要因
(A) 通貨的要因(主因)
- 金は「通貨価値の裏返し」として機能。通貨発行量の増加や通貨安が進むと価格が上がります。
- 実質金利(名目金利-インフレ率)がマイナスに沈んだ時期、特に金は強く上昇しました。
(B) 投資需給の影響
- 中国やロシアなど中銀による金購入が拡大。
- ウクライナ戦争や台湾有事リスクなど地政学的な要因から、安全資産としての需要も高まりました。
4. 「価値上昇」か「通貨下落」か?
- S&P500
実際に企業収益が拡大しており「実体的価値上昇」が大きな要因。ただし、通貨安による「見かけ上の上昇」も同時に存在します。 - 金
ほぼ「通貨防衛資産」としての側面が強く、価格上昇の多くは通貨の希薄化によるものです。
5. 投資戦略への示唆
- 通貨防衛なら金
インフレや通貨希薄化に対するヘッジとして有効。 - 成長を取り込みたいならS&P500
米企業の競争力やAI関連成長を反映し、実体的なリターンを期待できる。 - 組み合わせ効果
金はインフレや市場調整局面での防御力、株は長期の成長取り込みという役割で補完的に機能します。 - リスク認識も重要
- 利下げ局面では株も金も上がる可能性。
- 実質金利が急騰すると金は弱くなる。
- 株はAIブーム後の「期待剥落リスク」に要注意。
6. データで見る「名目 vs 実質」リターン
実際の数値をもとに、S&P500と金の推移を 名目値(通貨ベースそのまま) と 実質値(CPIで通貨価値を調整した購買力ベース) に分けて比較しました。
図1:S&P500と金の 名目 vs 実質(USDベース)累積インデックス(2020=100)
「名目」→「実質(購買力)」の差が重要:S&P500・金ともに名目は大きく上昇しましたが、CPI を差し引くと「残る実質リターン」は小さくなる(とはいえ両方ともプラスで、S&P500 の実質リターンも依然としてかなり強い)。
金はインフレヘッジとしての色が強い:金の名目上昇のかなりの部分はインフレ(通貨価値低下)および安全資産需要、中央銀行の買い入れ等が寄与。S&P500 は「収益(企業業績)+流動性・期待」の複合要因。
7. 為替効果を加味した円建て投資家の視点
日本の投資家にとっては、ドル建て資産の評価に 為替(USD/JPY) が大きく影響します。そこで、米ドルベースの名目リターンをドル円で換算した「円建ての累積インデックス」を示します。
図2:S&P500と金の 円換算累積インデックス(2020=100)
- 円安の進行により、S&P500も金も「円建て」では大幅なリターン拡大。
- 特にS&P500は 円安効果が大きな押し上げ要因 になっています。
- 日本の投資家がドル資産を保有することは、「通貨価値の防衛」としての側面が一層強調されます。
8. まとめ
S&P500と金の上昇は、いずれも「通貨価値の低下」に支えられているのは事実です。
しかし、S&P500には「企業収益の成長」という実体的な要因も大きく作用しています。
一方で金は、ほとんどが「通貨価値低下の裏返し」としての上昇です。
したがって投資戦略では、
- 株=成長とリスクテイク
- 金=通貨防衛と保険
という役割分担で捉えることが合理的だといえるでしょう。