神戸のオンリーワン企業:株式会社三徳の技術と国家戦略上の重要性
現代の電気自動車(EV)や風力発電、先端エレクトロニクスに欠かせない存在――それがレアアース(希土類)です。
その供給網では中国が精製・分離技術を圧倒的に支配していますが、日本にもこの分野で独自の地位を築いてきた企業があります。
それが、神戸市東灘区に本社・工場を構える「株式会社三徳」です。
一見すると住宅街に佇む小さな工場。しかしその技術は、日本の経済安全保障と未来の技術基盤を静かに支えています。
本記事では、その歴史と革新的な技術、そして国家戦略上の意義に迫ります。
1. 企業概要と「技術の三徳」の系譜
株式会社三徳は、1937年に前身の「三徳金属株式会社」として創立され、1940年代からいち早くレアアースの研究と工業化に取り組んできた、日本のレアアース産業のパイオニアです。
項目 | 詳細 |
---|---|
創立 | 1937年(前身「三徳金属株式会社」) |
所在地 | 兵庫県神戸市東灘区深江北町 |
事業内容 | 希土類(レアアース)金属、合金(磁石材料・電池材料など)の製造・販売、リサイクル |
現在の位置づけ | 株式会社プロテリアル(旧:日立金属)の完全子会社として、高性能磁石のバリューチェーンの中核を担う |
なぜ住宅地に工場があるのか?
現在の三徳の工場が住宅街に近い場所にあるのは、「工場が先」で「住宅地が後」という歴史的な経緯によります。
創立当時の神戸・深江地区は海岸沿いの工業地帯であり、戦後の都市開発に伴って周囲が宅地化。結果として「住工混在」の地域となりました。
軍需産業との関わり
創業期の三徳は、合金鉄などの特殊金属を製造していました。近隣には、旧海軍の航空機製造拠点・川西航空機(現:新明和工業の前身)の工場があり、当時の三徳が軍需産業の素材供給者として重要な役割を果たしていたことが推測されます。
2. 世界をリードする二つのオンリーワン技術
三徳が単なる素材メーカーにとどまらず、国家戦略上の重要性を持つ理由――
それは、中国が独占する精製・分離分野に対抗できる独自の技術、「合金化」と「リサイクル」にあります。
① 酸化物溶融塩電解法:高純度金属精錬の革新
革新性:1972年、三徳は世界で初めてこの技術を量産化。酸化物を電気分解して高品位のレアアース金属を抽出する独自プロセスを確立しました。
強み:この技術は、使用済み磁石などの廃材から高純度レアアースを再生する「リサイクル精錬」にも応用可能。
日本のレアアースリサイクル技術の礎を築く存在となっています。
② ストリップキャスト法:高性能合金製造の世界標準
革新性:溶融したレアアース合金を高速回転するロール上で急冷・凝固させ、組織の均一な薄片(ストリップ)を生成。
強み:この合金は、ネオジム磁石の性能を飛躍的に高め、EVモーターや産業用ロボットの小型・軽量化を実現します。
この技術こそが、日立金属(現プロテリアル)が三徳を完全子会社化した理由でもあります。
3. 三徳が担う日本の「国家戦略」的役割
三徳の技術は、今や一企業の競争力を超え、日本の経済安全保障を支える防衛インフラとも言える存在です。
戦略分野 | 三徳の具体的貢献 | 意義 |
---|---|---|
資源調達(国内確保) | 南鳥島レアアース泥開発プロジェクトに参画し、深海泥からレアアースを抽出・精製する技術を開発。 | 日本EEZ内資源を活用した「純国産レアアース」実現への技術的基盤。 |
サプライチェーン強化 | プロテリアル傘下で、高性能磁石の「合金製造」から「リサイクル」まで一貫生産体制を構築。 | 中国依存から脱却し、国内での安定供給を確立。 |
エネルギー革命 | 水素を安全に貯蔵・運搬する「水素貯蔵合金」の開発。 | 脱炭素社会を支える水素エネルギー技術への貢献。 |
リサイクル推進 | ネオジム磁石の研磨粉を回収し、独自精錬技術で再生(クローズドループ化)。 | 都市鉱山の活用による資源循環を実現。 |
結び:技術こそが防衛ライン
株式会社三徳は、神戸の地で80年以上にわたり「世界初」と「世界標準」を生み出し続けてきました。
その技術は、日本のハイテク産業の心臓部を静かに支えています。
レアアースをめぐる国際競争が激化する今、
三徳のような「資源循環」と「高性能合金化」技術を握る企業こそ、米国が15年かけて再構築しようとするサプライチェーンにおける“静かなる防衛ライン”と言えるでしょう。