【オードリー・タン氏の言葉から考える】「完璧主義」の鎖を解き放ち、日本企業に光を差し込ませるには?
先日、京都大学で開催されたAI特別講演で、台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン氏が語ったメッセージが、熱く、そして深く心に響きました。
それは、日本のビジネス文化、ひいては社会全体に根強く残る「完璧主義」や「減点主義」とは正反対の哲学を示すものでした。
今回は、タン氏の言葉をヒントに、日本企業で働く人々が抱える課題、そして今後私たちが目指すべき姿勢について考えてみます。
トヨタの「過剰品質・減点主義」との対比
タン氏の語る「完璧主義にこだわる時間などない」「完璧でないほうが、むしろ良い」という思想は、日本の代表的企業・トヨタが築いてきた「過剰品質」や「減点主義」と鮮やかな対比をなしています。
トヨタの品質へのこだわりは世界トップクラスの競争力の源泉ですが、
時に取引先には性能に影響のない微細な傷さえも許さない“過剰品質”を生み、コスト増や現場の疲弊につながることも指摘されています。
また、日本企業全般に根強い「減点主義」は、失敗を恐れ、新しい挑戦や不完全なアイデアの公開をためらわせる土壌となっています。
これに対し、オードリー・タン氏は次のように言います。
「朽ちる前に公開せよ(publish before I perish)」
命の不確かさを常に意識してきたタン氏にとって、「完璧を目指すこと」よりも「今持っている学びやアイデアを世に出すこと」にこそ価値があるのです。
「不完全さ」がもたらす革新と協働
タン氏の最も印象的な言葉のひとつが、次のメッセージです。
「完璧なものを投稿すると、人々はただ『いいね』を押して去っていく。
しかし不完全なものを出すと、『ここが間違っている、直さなきゃ』と思ってくれる。
そうして私は、未完成なものを公開することで多くの友人を得た。」
これは、まさに日本企業が抱える「イノベーションのジレンマ」の核心を突いています。
日本企業で働く人々が直面する課題
「完璧」を待つことによる機会損失
完璧な製品やサービスを目指すあまり、市場投入が遅れ、不完全でもスピーディーに参入した海外企業にシェアを奪われるケースが頻発しています。失敗への過度な恐れ
減点主義の文化の下では、リスクを避ける思考が優勢となり、大胆な挑戦や破壊的イノベーションが生まれにくくなっています。内向きの自己完結
組織内で完璧を追求するあまり、外部からのフィードバックや協働の機会を閉ざしてしまうことがあります。
タン氏が実践しているのは、「不完全さ」を協働と成長のトリガーに変える戦略です。
未完成な状態をオープンにすることで、多様な視点からの批判的フィードバックを引き出し、それを改善や共創の力に変えています。
今後の日本企業が目指すべき姿勢
講演の最後で、オードリー・タン氏はカナダのシンガーソングライター、レナード・コーエンの詩を引用しました。
鳴らせる鐘を鳴らしなさい。
完璧な供物を捧げようとするのは忘れなさい。
すべてのものにはひびがある。
光はそのひびから差し込むのです。
この詩は、日本のビジネスパーソンに向けた、極めて力強いメッセージでもあります。
1. 「減点」から「加点と修繕」へ
失敗や不完全さを責めるのではなく、「まずは世に出したこと」を評価する。
そして、その不完全さを皆で修繕し、共に成長していく文化へと転換していく必要があります。
2. アウトプットのサイクルを早める
完璧な「供物」を何年もかけて作り上げるより、未完成でも公開し、
市場やコミュニティの声を受けながら迅速に改善していくアジャイルな姿勢を重視しましょう。
3. 不完全さを受け入れる勇気
リーダーから若手まで、誰もが「自分は完璧ではない」と自覚し、
外からの「光(フィードバック)」を恐れず受け入れることが、変革の第一歩となります。
おわりに:「完璧」は「十分」の敵である
「完璧は十分の敵である(Perfect is the enemy of good)」という言葉があります。
今、日本企業に必要なのは、「完璧」の鎖を解き放つ勇気です。
鳴らせる鐘を今すぐ鳴らし、
その「ひび」から差し込む光を歓迎しながら、
より強く、しなやかな企業体質へと進化していく――。
その先にこそ、日本の新たな希望が見えてくるのではないでしょうか。