ラリー・エリソン【オラクルの覇者たる所以と今後の野望】

ラリー・エリソン【オラクルの覇者たる所以と今後の野望】

ラリー・エリソンが世界一の富豪に。AIインフラ覇権を狙うオラクルの戦略、TikTok買収構想、豪快な私生活まで徹底解説!


世界を席巻した株価急騰:エリソン、富豪の頂点へ

2025年9月、世界の富豪ランキングに異変が起きた。米オラクル(Oracle Corporation)の創業者であり会長兼CTOのラリー・エリソン(Larry Ellison)が、一時的に世界一の富豪に躍り出たのだ。オラクル株の急騰により彼の純資産は 3,930億ドル(約8兆円) に達し、友人でありライバルでもあるイーロン・マスクを追い抜いた。

この「世界一」の座は日々の株価変動によって入れ替わる可能性がある。それでも、AI時代のインフラ需要を背景にしたオラクル株の上昇が、エリソンの資産を一気に押し上げたことは間違いない。オラクルが発表した将来受注残高(RPO)が過去最高の 4,550億ドル に達したとの報道は、投資家心理を強烈に刺激した。

資産規模そのものよりも注目すべきは、エリソンが「AIインフラの勝者」として市場の期待を集めている点である。AIモデルを動かすための計算資源を誰が握るか、その競争でオラクルが急浮上しているのだ。


オラクル創業・拡張の原点:データベースからクラウドへ

エリソンは1944年、ニューヨークで生まれ、生後すぐに養子に出された。大学を中退後、カリフォルニアへ移りプログラマーとして働き、そこで磨いた技術力を武器に1977年に「ソフトウェア・デベロップメント・ラボラトリーズ」を創業した。これが後のオラクルである。

当初の主力はリレーショナル・データベース管理システム(RDBMS)だった。企業や政府機関にとってデータ管理は不可欠であり、オラクルの製品は爆発的に普及した。80年代にはIBMやマイクロソフトに挑む姿勢を鮮明にし、訴訟や批判を辞さない「反骨の経営者」として名を馳せる。

その後の成長を支えたのは買収戦略だ。2000年代にはPeopleSoftやBEA Systems、そして2010年にはSun Microsystemsを買収し、JavaやMySQLといった重要技術を手に入れた。2021年には医療分野に踏み込み、電子カルテ最大手のCernerを283億ドルで買収。こうしてオラクルはデータベース専業から、クラウド・SaaS・医療ITを網羅する総合企業へと変貌を遂げた。

2014年にCEOを退いた後も、エリソンは会長兼CTOとして技術戦略を主導している。巨額の自社株を保有し続けることで、短期的な市場圧力に左右されず、長期ビジョンを描ける体制を維持している点も特徴だ。


AIとクラウド基盤へ賭ける戦略:インフラ覇権をめざして

現在のオラクルを押し上げている最大の要因は、AI需要の爆発だ。ChatGPTに代表される生成AIが広がる中、必要とされるのは「巨大な計算資源」と「高性能なクラウド基盤」である。

オラクルはこの分野に巨額投資を行い、データセンターの建設を加速させている。エリソン自身が「競合他社の合計より多くのデータセンターを建設する」と豪語するほどだ。実際、NvidiaやOpenAI、Meta、Elon MuskのxAIとも契約を結び、AI処理用のクラウドリソース提供で急速に存在感を高めている。

また、オラクルは他のクラウド事業者との連携にも積極的だ。Microsoft AzureやGoogle Cloudとの相互接続を進め、マルチクラウド戦略を打ち出している。これは「顧客が逃げにくい」構造を作り出すと同時に、オラクルのクラウドを不可欠な選択肢へと位置づける狙いがある。

AIインフラ市場は競争が激しいが、オラクルは「後発の強み」を活かし、最新設計のデータセンターを短期間で展開できる利点を持つ。銀行や政府といったセキュリティ要求の高い顧客層を押さえている点も、差別化要因だ。


TikTok買収構想とメディア支配への布石

日経記事でも触れられたように、エリソンはTikTok米国事業の買収構想にも関与している。これは単なる投資ではなく、「情報流通の主導権」を握ろうとする試みだ。

2025年、米政府が中国・ByteDanceによるTikTok運営に規制を強める中、Oracleは投資ファンドと組んで米国事業のスピンオフを模索。もし実現すれば、TikTokのアルゴリズム監査やデータ運用をオラクルが担う可能性が高い。

この動きは、クラウド基盤の提供者にとどまらず、アルゴリズムを通じて「何を誰に届けるか」をコントロールする立場へと踏み込むことを意味する。報道によっては、エリソンがTikTokを軸にメディア支配を拡張しようとしているのではないかとの見方も出ている。

もちろん懸念も大きい。言論の多様性やアルゴリズムの透明性が損なわれるリスク、独占禁止法や国家安全保障との摩擦など、規制当局の監視は厳しさを増すだろう。それでも、エリソンはこうしたリスクを恐れず、大胆に踏み込もうとしている。


私生活とビジョン:ハワイ島、別荘、寄付宣言

エリソンの生活は常に注目を集める。2012年にはハワイ・ラナイ島の98%を買収し、持続可能な農業や観光開発に取り組んでいる。日本・京都の南禅寺にも別荘を構え、親日家としても知られる。

同時に、彼は慈善活動にも関心を示し、資産の95%を寄付する意向を表明している。ただしその方法は従来の基金型ではなく、自らの裁量でプロジェクトに資金を投じるスタイルだ。これは「社会への還元」と「自由度の確保」を両立させようとする姿勢ともいえる。

反骨心と豪快な性格は、若き日のジョブズやゲイツらとの交流からも垣間見える。IBMやマイクロソフトを公然と批判し、時に裁判で対抗する姿は「型破りの実業家」としての象徴だ。年齢を重ねてもその精神は衰えず、今なお大規模な挑戦に挑み続けている。


リスクと批判:集中型戦略の危うさ

エリソンの戦略はスケールが大きい分、リスクも伴う。

第一に、資産の大部分がオラクル株に集中している点だ。株価の急落が資産を直撃し、担保に入れている株式が追証リスクを生む恐れがある。

第二に、規制当局との摩擦だ。AIインフラに加えメディアやアルゴリズムまで握ろうとすれば、独占禁止法や国家安全保障上の懸念が高まる。TikTok買収構想はすでにその火種を抱えている。

第三に、技術競争の不確実性だ。Google、Microsoft、Amazon、Nvidiaといった強敵がひしめく中、新しいチップ技術や量子計算が普及すれば、今のデータセンター中心モデルが陳腐化する可能性もある。

大胆さは成功の原動力だが、その裏には常にリスクが潜むことを忘れてはならない。


今後の展望:技術革新と影響力の拡大

それでも、エリソンが描く未来像は揺るぎない。AI基盤の世界的需要は今後10年でさらに拡大し、オラクルはその中心に位置する可能性が高い。

また、TikTokを含む情報プラットフォームへの関与が進めば、技術とメディアを融合させた「情報帝国」構想が現実味を帯びるだろう。

同時に、社会的責任も問われる。AI時代のインフラとアルゴリズムを握る者は、プライバシー、透明性、公平性を確保する責務を負う。エリソンが寄付や社会貢献をどう実行するかも、今後注目される。

彼は単なる「世界一の富豪」ではない。データベースの革命児から始まり、クラウド覇者へ、さらに情報支配者へ──その挑戦は今も続いている。


結びに代えて

ラリー・エリソンは現役最年長のテック創業者にして、反骨と挑戦を貫く稀代の実業家だ。世界一の富豪という称号は一時的であっても、彼がAI時代における「基盤」を制し、社会の在り方そのものに影響を与えつつあることは間違いない。

今後10年、彼のビジョンと野望がどこまで実現するのか──その行方は、技術だけでなく、私たちの社会や情報環境の未来をも左右することになるだろう。